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123. 金泰昌(キム・テチャン)‐武田康弘の往復書簡 出版へ
    『ともに公共哲学する』 東京大学出版会刊

ともに公共哲学する 共に公共哲学する
  日本での対話・共働・開新
  金泰昌編著 東京大学出版会 2010年8月1日 3800円+税

 以前、このサイトで紹介した『金泰昌(キム・テチャン)‐武田康弘の往復書簡』が何と本として出版されてしまいました!
(さまざまな人との対話が載っていますが、『金泰昌‐武田康弘の往復書簡』はこの本の1/4を占め、事実上、中心的な扱いを受けています。なお、このサイトでたびたび出てくる荒井さんと金さんとのやりとりも載っています。)

 これには驚きました。
これは金さんと市井の一哲学者である武田康弘との対談録(内容的には厳しい対決・対話的討論)であり、その内容の核心の一つが学校序列宗教=東大病 批判にあるのです。それが東大出版会から出たのですから、普通の感覚からすると、エッ!となるのも不思議ではありません。

 それが本として出版されたわけは、おそらく、
『武田康弘氏は今日に到るまでの日本在住(一九九〇−二〇〇七)の期間に出会ったほとんど唯一の在野の気概のある民間哲学者もしくは市民哲学者です。』
対談の初めの金さんのこのコメントがその理由の一つを表しているでしょう。
が、より本質的には、既成の知や理論から出発するのではなく、より根源的なところからとらえ直そうとする館長・武田康弘の原理的思考の絶大な威力に圧倒された、というのが本当のところではないかと思います。
 これこそ民知の威力!と私は思いますが、いかがでしょう。
是非、一読していただきたいと思います。

 この本、とても高価ですので、中々手に入れるのは大変だと思います。
が、この往復書簡の内容はすでにこのサイトで公開済みです。下記を参照ください。
=> 往復書簡 Part1.Part2.
 ついでに言うと、この本に出ている往復書簡の前半部(往復書簡1-21)のうち、金さんが書かれたものはかなり追加、修正が加えられています。このサイトにあるものはオリジナルの無修正のものです。生々しくヴィヴィッドですヨ!
それから、Part1.の15.および16.、Part2.の最後の二本、33.および34.はこの本には出ていませんので貴重です。一見の価値あり!

 なお、このあと、二人の往復書簡は何度か続いており(未公開)、いよいよ哲学の最も根源的な問題、『私』にかかわる対話に入ったところで中断となっています。テーマは「命」(生命・生活)。続くととてつもなく面白くなると思うんですが、さて・・・・

 

 最後に一言、日本人の多くは真正面から議論を闘わすことを避けます。分が悪いとなれば、拒絶、無視、陰での誹謗中傷に走ることも少なくありません。
この点、金さんには異質なものを受け止める度量がありました。この点については拍手喝采です。見習いたいものです。


 以下、参考までに、この本の二人の対話録の『はじめに』の部分を載せておきます。
金さんの文は書き下ろしで、館長・武田康弘の文はこのサイトにも載っていますが、2007年に書かれたものです。なお、写真は本の方には載っていません、念のため(笑)。

1 「楽学」と「恋知」の哲学対話

志民哲学者武田康弘氏との往復書簡

はじめに

金泰昌

キム・テチャン

金泰昌(キム・テチャン)
2006年12月23日 白樺教育館にて
(撮影:染谷)

 武田康弘氏は今日に到るまでの日本在住(一九九〇−二〇〇七)の期間に出会ったほとんど唯一の在野の気概のある民間哲学者もしくは市民哲学者です。わたくし自身の個人的な言い方をすれば、志民‐志を持った民衆の一人‐ということになります。ゼロからの日本学習を目指すわたくしが直面した問題やそれについてのわたくしの疑問に対して、いろんな側面から率直明瞭に応接・応答・対応していただいたお陰で、久しぶりに在野気質の哲学者との快談疎通が実現しました。具体的な問題に対する考え方や捉え方には相異なるところが多々ありますが、制度知の横暴に対する民生知による是正を重視しその力働をもって日本維新を実現することに全力投入する姿に共感を覚えるところがありました。次は武田康弘氏のコメントです。

 

武田康弘

タケセン

武田康弘 
2006年9月9日 白樺教育館にて
(撮影:古林)

 金泰昌(キムテチャン)氏とわたしとの出会いは、二年前(二〇〇五年)の六月です。まったく未知の方であった金氏とのご縁は、『公共的良識人』二〇〇五年七月号に書きました通り、わたしが、白樺派の精神を現代に生かそうというコンセプトの下につくった「白樺文学館(出資者は日本オラクル初代社長の佐野力氏)の基本理念を東大教授の山脇直司氏が金氏に送ったことに始まります。この基本理念は、今は白樺文学館ではなく、「白樺教育館」のものですが、それを読んで感動・共感された金氏が来館され、そこから二人の間の対話が始まりました。
 金氏は、都合四回、白樺教育館を訪れ、白樺に集う大学生や市民たちとの自由対話を楽しみ、皆に大いなる刺激を与えましたが、その問にもかなりの頻度で電話での対話を続けました。それは、従来、大学で行われてきた哲学=「哲学史 内 哲学」ではなく、もっと有用な広い意味での哲学、生活世界でふつうの市民が哲学する道を切り開くためにはどうしたらよいのかを模索する多次元的な対話であり、その中には往復書簡も含まれています。それを皆に示すことで、「哲学の民主化」のために多くの方のお力を得ようではないかという共通了解に達しましたので、公開することになったのです。
 金氏の基本姿勢は哲学することは「大楽」であるべきだということですが、わたしは、フィロソフィアを語源通り「恋知」と訳して立場としています。恋とは聖なる狂気ですが、この「狂気」の善用のみが、人間の生きる意味・悦びの産出を可能にすると考えているからです。
 最後に、自己紹介をします。
 わたし武田康弘は、一九五二年五月東京神田生まれで、大学では哲学を学びましたが、それは哲学の専門家になるためではなく、自分で哲学するための一助と考えてのことでした。在学中から哲学を現代社会に生かす「意味論としての学習」を行う教育機関をつくろうと決め、一九七六年に独力で小さな「私塾」を開きました。それが「白樺教育館」の前身「我孫子児童教室」ですが、そこでの教育実践を哲学するために同時に「我孫子児童教育研究会」を主催し、それが後に管理教育是正のための市民運動を推し進めることになったのです(一九八六年)。その経緯は、岩波書店から依頼された「我孫子丸刈り狂騒曲」(『世界』一九九二年八月号)に詳しく記しました。
 わたしは、この一九八六年に始まる教育改革運動の直前からの数年間、哲学者の竹内芳郎氏に師事し、言語論を中心に、宗教論、文化論を学びました。一九八七年から「哲学研究会」を開きましたが、その主要メンバーであった佐野力氏の依頼で一九九九年二月から「白樺文学館」の創設に全精力を注ぎ、二〇〇一年一月の開館からは初代館長を務めました。そこでの活動を活かして、より明瞭に当初の理念を生かすべく二〇〇二年初頭から二年をかけて「白樺教育館」をつくり現在に到っています。
 では、刺激的な「楽学」と「恋知」の哲学対話を、ぜひ最後までお読み下さることを。


 

参考その2.この本に関してのタケセンと荒井さんのコメントはこちら=>

追記:

上記、『ともに公共哲学する』出版の経緯について、後日、当事者のタケセン自身がブログで語っています。大変興味深い話です。ぜひ、ご覧になってください。
「事件だった『哲学往復書簡』(金泰昌と武田康弘・東大出版会刊)の裏話」
2012年5月29日


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修正加筆2012年5月29日
2010年7月10日
古林 治

 
 
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