Home > 教育館だより目次 > 119. 『行政監視と視察』発刊・画期的な報告書 (行政監視委員長・視察報告)

白樺教育館 教育館だより 目次

 
 
前ページ

119. 『行政監視と視察』発刊・画期的な報告書
   (行政監視委員長・視察報告)

行政監視と視察 少し前(2009年12月)のことですが、参議院議員山下栄一氏が『行政監視と視察』という報告書を発刊しました。
淡々と書いてしまうと何のことはない話ですが、実はこれ、党派を超えて大変画期的なことでありました。その画期的な業績に武田康弘教育館館長も関係しているので、今日はそのお話と紹介をしておきます。

  行政(言うまでもなく官僚が主体の)機関で働く人たちは国家公務員試験をパスして職につきますが、彼らは私たち主権者が選んだのではありません。また私たち主権者の意思に従って仕事をしているかどうかも良くわかりません。これが官僚支配の問題の本質といえるでしょう。

 そう考えると、参議院行政監視委員会は私たち主権者の代行者(政治家)が行政活動を専門に監視する、唯一と言ってよい重要な機関なのです。その行政監視の活動の中でとりわけ重要な仕事である「視察」について、まとめて一般に公開したのが、この報告書です。わずか1年間という期間で、32箇所もの行政の現場を視察したというのですから、それだけでもすごいことでしょう。
 さらに注目すべきは、民主制社会における行政監視の意味とは何か?という哲学的根拠にまで掘り下げて考え始めている点です。(ここに教育館館長がかかわるのですが、)行政監視委員会は自らの存在意義(哲学的根拠)を明確にしてさらにパワーアップしたといえるでしょう。原理をしっかりおさえることで思考は研ぎ澄まされ、行政監視という業務の意義がさらに高まることは間違いありません。今後の活動がさらに楽しみです。

 さて、その内容に少しだけ触れてみましょう。以下、報告書から【3.行政監視の本質と委員会のあり方 @行政監視は「官=公=国家」を打破する活動】と目次部分を抜粋し添付します。
 全文は山下議員のホームページからダウンロードできますので、ぜひご覧になってください。ダウンロードはこちら=>

以下、【3.行政監視の本質と委員会のあり方 @行政監視は「官=公=国家」を打破する活動】

3.行政監視の本質と委員会の在り方

@行政監視は「官=公=国家」を打破する活動

 主権在民(憲法前文※1・第1条 ※2)の原理に基づき、国会が国民に代わって政府及び「官」の活動を監視するのが、本来の行政監視である。言うまでもなく、今日の我が国は主権在民の民主主義国家であり、公務員は戦前の「天皇の官吏」ではなく、「全体の奉仕者」である(※3)。したがって、戦前のように政府及び「官」が、「国民一般の利益」とは異なる「国家の利益」や「官独自の利益」を追求することは許されない。政府及び「官」は、「全国民に共通する社会一般の利益」である「公共の利益」(※4)を実現するためにのみ存在する。行政監視は、これを担保するための「国権の最高機関」(憲法第41条)の活動である。政治行政の現場では、天下りやキャリアシステム等、未だに戦前からの「官=公=国家」という観念で行政が運営されているケースが蔓延しており、これでは、主権在民の原理からすれば、まやかしの民主主義国家と言わなければならない。しかし、国民の多くがそのことを理解しておらず、また公務員でさえも、自覚のない者は少なくない。主権在民を根拠とする行政監視の思想は、「官=公=国家」という従来の観念を根本的に打破するものである。

憲法前文
 そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。

※2

憲法第1条
 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。

憲法第15条第2項
 すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない

※4

国家公務員法第96条第1項
 すべて職員は、国民全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当っては、全力を挙げてこれに専念しなければならない。

 なお、「官」と「公」の関係については、現在、行政監視委員会調査室の客員調査員を務める哲学者の武田康弘氏(我孫子市白樺文学館初代館長が、次のように述べている。

 「公(おおやけ)という世界が市民的な公共という世界とは別につくられて良いという主張は、近代民主主義社会では原理上許されません。昔は、公をつくるもの=国家に尽くすものとされてきた『官』は、現代では、市民的公共に奉仕するもの=国民に尽くすもの、と逆転したわけです。主権者である国民によってつくられた『官』は、それ独自が目ざす世界(公)を持ってはならず、市民的公共を実現するためにのみ存在する。これが原理です。」

 これは、日本国憲法が依拠する民主主義思想の哲学的根拠を明らかにする極めて重要な指摘であり、行政運営及び行政監視の思想的土台となると思われる。

 

目次

第1部 行政監視と視察
     「行政監視と視察〜行政監視の本質と委員会の在り方〜」

  1. 行政監視委員会・創設の経緯と現状
  2. 行政監視委員長・視察の理由
  3. 行政監視の本質と委員会の在り方

第2部 各視察先の報告書
     視察先一覧

  1. 信州大学法科大学院(2008年10月29日)
  2. 国立公文書館(200き年10月30日)
  3. 関東農政局(2008年11月5日)
  4. 日本理化学工業株式会社(2008年12月15日)
  5. 防衛省防衛研究所(2008年12月25日)  
  6. 国立感染症研究所(2009年1月15日)
  7. 総務省東京行政評価事務所(2009年2月18日)
  8. 新宿外国人雇用支援・指導センター(2009年2月19日)
  9. 国立美術館(2009年3月9日)
  10. 宮内庁書陵部(2009年3月19日)
  11. 外務省外交史料館(2009年4月3日)
  12. 東京空港事務所管制保安部(2009年4月16日)
  13. 内閣府経済社会総合研究所(2009年4月28日)
  14. 財務省財務総合政策研究所(2009年4月28日)
  15. 東京大学医学部標本室(2009年5月14日)
  16. 中央職業能力開発協会(2009年5月22日)
  17. 国連アジア極東犯罪防止研修所(2009年5月28日)
  18. 日本中央競馬会(2009年6月4日)
  19. 介護労働安定センター(2009年6月15日)
  20. 消防庁消防大学校(2009年6月22日)
  21. 消防庁消防研究センター(2009年6月22日)
  22. 昭和館(2009年7月3日)
  23. しょうけい館(2009年7月3日)
  24. 東京税関(2009年9月9日)
  25. 東京外郵出張所(2009年9月9日)
  26. 国文学研究資料館(2009年9月17日)
  27. 国立国語研究所(2009年9月17日)
  28. 特許庁(2009年9月30日)
  29. 日本銀行(2009年10月7日)
  30. 新エネルギー・産業技術総合開発機構(2009年10月16日)
  31. 観光庁(2009年10月21日)
  • ※【委員会視察】警察庁科学警察研究所(2009年2月26日)

関連記事→

116. 二人のタケダ(竹田青嗣・武田康弘)思想
   荒井達夫著(参議院『立法と調査』論文)
115. 「東大病」についての対話 (1)&(2)+コメント
112. 日経新聞/『街の哲学 人を動かす』
111. 10月より武田館長 参議院・行政監視委員会の客員調査員-講師に
108. 東大病 ‐ 「キャリアシステム」を支えている歪んだ想念
106. 公と公共の分離への批判 2. ざっくばらんに言えば・・・
105. 公と公共の分離への批判 ‐武田館長の見解‐
98. 東京新聞/ 天下り根絶 『良識の府』が問う
  「公僕の原則 見失うな」
97. 武田康弘館長による【哲学】する公開講座
ー市民アカデミア2008 の総括

96.『立法と調査 別冊 2008.11』発行のお知らせ
  特集 「国家公務員制度改革とキャリアシステムに 関する意見調査」
95. 武田康弘館長による【哲学】する公開講座 ー市民アカデミア2008
94. 写真速報 『公務員を哲学する−市民社会と公共性を考える』
  ー市民アカデミア2008
93. 参議院調査室からの論文依頼 
  『「国家公務員制度改革とキャリアシステム」 について』
92. 公開講座『公務員を哲学する−市民社会と公共性を考える』
  ー市民アカデミア2008のご案内
90. 公(おおやけ)と公共を分けるべき!?
89. 「公共哲学と公務員倫理」 〜パネルディスカッションを振り返って〜
87. 参議院主催パネル・ディスカッション「公共哲学と公務員倫理」
86. 館長・武田康弘が、 参議院主催「公共哲学と公務員倫理」のパネリスト
84. 金泰昌(キム・テチャン)‐武田康弘(たけだやすひろ) の 恋知対話(往復書簡)
   Part 2. 前編
83. 幻の「白樺特集号」 『公共的良識人』07年2月号掲載予定の原稿公開
81. 金泰昌(キム・テチャン)‐武田康弘(たけだやすひろ) の恋知対話(往復書簡)
   Part 1. 完結
76. 市民自治を創る
75. 12.23 キムさん・タケセンを軸にした白樺討論会〈第5回白樺討論会〉
74. 12.9〈第4回白樺討論会〉 山脇氏・武田氏
73. 10.8〈第3回白樺討論会〉 稲垣氏・古林氏
72. 9.9〈第2回白樺討論会〉 山脇氏・荒井氏
71.「白樺教育館の活動は、日本における注目すべき動向」 ―高い評価を頂きました
20.問題提起としての書評 -「公共哲学とはなんだろう」-
69.『6.3金さんとの対話』の感想 ー 染谷裕太、中西隼也、 中野牧人、楊原泰子、古林 治、清水光子(+川瀬優子)、 舘池未央子
65.民知・恋知と公共哲学
64.民知=恋知とは?(柏市民新聞・依頼原稿)
63.8・7会談−竹田青嗣氏・山脇直司氏・武田康弘氏
61.民知宣言!「公共哲学」編者ー金泰昌氏来館・会談


2010年5月2日
古林 治

 
 
前ページ
 
 

白樺教育館 教育館だより 目次

 
 
Home > 教育館だより目次 > 119. 行政監視と視察(行政監視委員長・視察報告)