Home > 教育館だより目次 > 106. 公と公共の分離への批判 2. ざっくばらんに言えば・・・

白樺教育館 教育館だより 目次

 
 

106. 公と公共の分離への批判 2. ざっくばらんに言えば・・・

 前回、『公と公共の分離への批判』について触れましたが、今回もその続きです。ただし、前回は簡潔明瞭に、かつ論理的に武田館長に語ってもらいましたが、今回はもっとざっくばらんに語ってもらいました。多分、中学生でもわかると思います。
 皆さん、どのようにお考えですか。ご意見お待ちしてます。


金泰昌さん批判(2)官の存在意味は?

 「国家公務員は、『公』=国家のために働くものです。それに徹することが大事です。」「われわれ市民は、『公』とは異なる『公共』の領域を拓き、それを豊かにすることを頑張るのです。」

 そう金泰昌(キム・テチャン)さんは言いますが、
なんだか江戸時代みたいですね〜。

 江戸の町民は、世界屈指の町民自治=自分たちで『公共』の世界をつくり上げていました。でも、それとは異なる江戸幕府という絶対権力=『公』がありました。幕府は幕府でしっかり仕事をし、町民は町民で頑張る、そういうことだったのでしょう。

 ところが、維新で天皇を担ぎ出した王政復古の明治政府は、江戸の町民がつくっていた『公共』の世界を、『公』(官僚政府)に吸収し、一元的に『公』の支配する天皇制国家を目がけたのでしたね。「国=天皇陛下のために生き・死ぬことが道徳だ」と宣言したわけですが、それは今もなお「靖国神社」の中心思想となって残っています。

 『公』の一元支配から『公共』領域を拓こうとする金泰昌さんの公共哲学は、なにか江戸時代の町民自治のようですが、幕府という『公』が町民のつくる『公共』とは独立して存在する封建時代ならそれでよいのでしょうが、主権在民の民主主義国家では、市民の『公共』とは別に『公』なる権力が存在することは許されないはずです。

 『公』が『公共』から自立して存在することを認めない、そういう意味で『公』を廃棄し、『公共』の下に政府と官を従わせる、それが民主主義の民主主義たる基本思想=要件のはず、わたしは小学生の時からずっとそう確信してきましたが、それがなかなか現実化せず、いつまでも、われわれ市民が「サービスマン」として雇っているはずの役人=官僚が、市民=『公共』の上に君臨する官僚独裁のような「お上国家」から抜け出れないことも確かです。

 愚かな話ですが、この官僚に跪(ひざまず)く国民という哀れな現実を支えてきた想念が「東大病」であることを、わたしは参議院発行の『立法と調査』に書きました。単なる事実学に支配され、暗記マシーンのような頭脳を優秀だとする無思考文化の生む非喜劇が今のわが日本の現実ではないでしょうか。

 話を戻しましょう。

 いちばん大事な基本思想は、従来は『公』と呼ばれた政府や官は、市民がつくる『公共』世界を支え・担うためにのみ存在すること。最上位にあるのは、主権者である市民がつくる公論であり、それを現実化することが政府や官の仕事であること。政府や官は、市民から自立した権力や主権者の論理とは異なる独自の論理を持ってはならぬこと。以上です。

 したがって、ほんとうに価値ある【公共哲学】とは、金泰昌さんが『公』と呼ぶ官は、『公共』実現のためにのみ存在することを明白にし、それを現実化するために社会的、教育的、学問的な努力をするものです。そのように考え、行為したとき、はじめて公共哲学は、皆のものになる可能性が生まれるのです。

 金泰昌さんの「公と公共を分けることが大事」という思想=言い方は、古い思想=常識を引きずったまま『公共』を拓こうとする営為が生んだものと言えますが、それでは少しも前進しないのです。

2009年6月19日
武田康弘


※現実を支えてきた想念が「東大病」であること
  =>【「キャリアシステム」を支えている歪んだ想念】を参照ください。


関連記事→

105. 公と公共の分離への批判 ‐武田館長の見解‐
98. 東京新聞/ 天下り根絶 『良識の府』が問う
  「公僕の原則 見失うな」
97. 武田康弘館長による【哲学】する公開講座
ー市民アカデミア2008 の総括

96.『立法と調査 別冊 2008.11』発行のお知らせ
  特集 「国家公務員制度改革とキャリアシステムに 関する意見調査」
95. 武田康弘館長による【哲学】する公開講座 ー市民アカデミア2008
94. 写真速報 『公務員を哲学する−市民社会と公共性を考える』
  ー市民アカデミア2008
93. 参議院調査室からの論文依頼 
  『「国家公務員制度改革とキャリアシステム」 について』
92. 公開講座『公務員を哲学する−市民社会と公共性を考える』
  ー市民アカデミア2008のご案内
90. 公(おおやけ)と公共を分けるべき!?
89. 「公共哲学と公務員倫理」 〜パネルディスカッションを振り返って〜
87. 参議院主催パネル・ディスカッション「公共哲学と公務員倫理」
86. 館長・武田康弘が、 参議院主催「公共哲学と公務員倫理」のパネリスト
84. 金泰昌(キム・テチャン)‐武田康弘(たけだやすひろ) の 恋知対話(往復書簡)
   Part 2. 前編
83. 幻の「白樺特集号」 『公共的良識人』07年2月号掲載予定の原稿公開
81. 金泰昌(キム・テチャン)‐武田康弘(たけだやすひろ) の恋知対話(往復書簡)
   Part 1. 完結
76. 市民自治を創る
75. 12.23 キムさん・タケセンを軸にした白樺討論会〈第5回白樺討論会〉
74. 12.9〈第4回白樺討論会〉 山脇氏・武田氏
73. 10.8〈第3回白樺討論会〉 稲垣氏・古林氏
72. 9.9〈第2回白樺討論会〉 山脇氏・荒井氏
71.「白樺教育館の活動は、日本における注目すべき動向」 ―高い評価を頂きました
20.問題提起としての書評 -「公共哲学とはなんだろう」-
69.『6.3金さんとの対話』の感想 ー 染谷裕太、中西隼也、 中野牧人、楊原泰子、古林 治、清水光子(+川瀬優子)、 舘池未央子
65.民知・恋知と公共哲学
64.民知=恋知とは?(柏市民新聞・依頼原稿)
63.8・7会談−竹田青嗣氏・山脇直司氏・武田康弘氏
61.民知宣言!「公共哲学」編者ー金泰昌氏来館・会談


追記2009年6月21日
2009年6月19日
古林 治

 
 
 
 

白樺教育館 教育館だより 目次

 
 
Home > 教育館だより目次 > 106. 公と公共の分離への批判 2. ざっくばらんに言えば・・・