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93. 参議院調査室からの論文依頼 『「国家公務員制度改革とキャリアシステム」 について』

 例のパネル・ディスカッションの影響もあったのでしょうか。今、参議院でも民主制の原理と公務員倫理の話が真剣に議論されるようになってきているようです。素晴らしい!!
 その具体的な活動の一端について触れましょう。実は7月末に『「国家公務員制度改革とキャリアシステム」 に関する意見を聞きたい』と、参議院調査室より教育館館長のタケセン(武田康弘)に依頼文書が送付されてきました今日はそのご紹介。

  ところで、「キャリアシステム」とは、自由民権思想・議会制民主主義を憎悪しそれらを排除すべく山県有朋らが明治期に作り上げた高等文官試験制度の残滓(ざんし)ですが、その実態は、明治以来の天皇制とそれを支える官吏としての公務員という悪しき「官」のエリート主義=東大法学部支配と言えます。その「キャリアシステム」を、立法府(参議院)から根本的に見直し変革しようというのですから、従来の常識では考えられない画期的な事件であると言ってよいでしょう(拍手喝采!!)。

  ちなみに、この意見調査の依頼文は、国内における各界の有識者に広く送られているそうです (セブンイレブン創始者、人事院元総裁、元および現東大総長・同大学法学部教授など。おなじみの山脇直司さん、竹田青嗣さん、福嶋浩彦さん、それに金秦明(キム・テミョン)さんらも含まれてます)
 大変重要な文書−事件ですので、ご紹介することにしました。また、依頼文書と一緒に(参議院行政監視委員会調査室次席調査員)荒井達夫さんの論文も同封されていましたので、これも一緒にご紹介します。
  この意見調査にどのように応えるか、これはまさに公共哲学の実践であり、その真価(民主的性格)が問われる最大の契機でもあると言えるでしょう。

立法と調査

パネル・ディスカッションの内容がそのまま公開された『立法と調査 別冊 2008年2月号』

 なお、この依頼に対する回答(論文)はパネルディスカッションのときと同様に、すべて - 『立法と調査 特集号』と参議院ホームページに - 公開されます。面白いことになってきましたねぇ。

 

平成20年7月29日

   武田康弘様

参議院行政監視委員会調査室長 西澤 利夫
内閣委員会調査室長 小林 秀行
総務委員会調査室長 高山 達郎

 

「国家公務員制度改革とキャリアシステム」
に関する意見調査について

 

 拝啓 時下ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。

 さて、先の第169回国会において去る6月6日、いわゆるキャリアシステムの廃止を目的とする国家公務員制度改革基本法(以下「基本法」といいます。)が成立しました。キャリアシステムとは、採用時の1回限りの試験で中央省庁の幹部要員の選抜を行い、同期の者はほぼ同時期に昇進していくことを原則とする人事管理の方法のことですが、法的根拠はなく、単なる人事慣行として行われているものです。

 このキャリアシステムの廃止は、国家公務員の早期退職と天下りの廃止、省庁割拠主義の是正、独立行政法人の整理合理化に直結する我が国の行政における重大問題であり、これまで様々な議論が行われてきたところであります。また、人事院は、「平成19年度年次報告書」の中で、キャリアシステムの弊害について「従来から、『採用時の1回限りの選抜で、生涯にわたる昇進コースまで決定されるのは不合理である』、『閉鎖的なキャリアシステムが特権的な意識を生じさせている』などの批判がなされてきた。」と述べています。

 しかしながら、基本法にはキャリアシステムの廃止を妨げるおそれのある施策が盛り込まれているとの批判も強くあり、国会審議では、キャリアシステムの廃止ではなく、法律による制度化であるとの意見や、国家公務員の大学卒業者採用試験を「総合職と一般職」に分けることで、今以上の「スーパーキャリア」を誕生させることになるのではないか、という疑問も出されました。

 審議が行われた参議院内閣委員会における基本法の採決の際の附帯決議では、キャリアシステムの廃止について、政府は次の事項に万全を期すべきであるとしています。
「キャリアシステムの廃止が法制定の目的であることを踏まえ、職員の人事管理が採用試験の種類にとらわれてはならない旨の規定を完全に実施するよう最大限の努力を行うこと」、「公務員が憲法第15条第2項に規定する全体の奉仕者であることを踏まえ、幹部候補育成課程の対象者に特権的意識を持たせるものとならないよう研修等において十分配慮しなければならないこと」

 以上がキャリアシステムの廃止をめぐる最近の国会の動向ですが、中央省庁の幹部職員に求められている政策の企画立案や業務管理の能力の有無は、果たして採用試験で判定できるのかどうか。官製談合等の重大な公務員不祥事の発生を防止するための公務員研修は、一体どうあるべきなのか。そもそも民主制国家を支える国家公務員には、どのような資質が求められているのか、等々。キャリアシステムについて議論する場合には、これらの問題を民主制国家における一市民・生活者という観点から考えることが不可欠であり、そのためには公務と公務員の現状を直視し、素朴な問題意識から常識に基づいて考えることが何より重要ではないかと存じます。

 そこで、この度、国家公務員制度改革に関する議会の行政監視及び議員の立案等に資するため、「キャリアシステムの廃止〜民主制国家を支える国家公務員の育成のために〜」をテーマに、国内の有識者の方々のご意見を幅広く調査することを企画しました。

 お忙しいところ恐縮ですが、趣旨をご理解いただきまして、「別紙要領」により、キャリアシステムの廃止について率直なご意見をお寄せいただければ、と存じます。お送りいただきましたご意見については、原則として原文のまま、とりまとめ、印刷物として関係議員に配布するほか、参議院のホームページ等で公表することを予定しております。

 突然のご依頼で誠に申し訳ありませんが、何卒よろしくお願いします。

敬 具


(別紙要領)

○テーマ:「キャリアシステムの廃止
〜民主制国家を支える国家公務員の育成のために〜」

○論点:
・キャリアシステムをどのように理解、評価しているか。
・キャリアシステムの廃止のためにどうすべきと考えているか。
・民主制国家を支える国家公務員の育成に何が大事と考えているか。
※これらの論点に限らず、自由に論じてください。

○字数等:2,400字以内
※氏名・肩書きを明示してください。

○締切り:平成20年9月末日
※原稿は、E-mail又は郵便で下記の「連絡先」にお送りください。

○謝礼:18,000円
※薄謝ですが、謝金としてお支払いします。

○参考:荒井達夫「国家公務員制度改革とキャリアシステム〜参議院による行政監視の意義〜」(「立法と調査」本年8月発行に掲載予定)
※重要論点について簡潔にまとめてありますので、参考にしていただければ幸いです。 

○連絡先(事務担当):参議院行政監視委員会調査室 次席調査員 荒井達夫


※執筆の可否をご連絡いただければ、大変有り難く存じます。

 

国家公務員制度改革とキャリアシステム
〜参議院による行政監視の意義〜

行政監視委員会調査室  荒井(あらい) 達夫(たつお)

本年6月6日、キャリアシステムの廃止等を目的とする国家公務員制度改革基本法(以下「基本法」という。)が成立した。
「行政に対する信頼を回復し、行政の運営を担う国家公務員が常に国民の立場に立ってその職務を遂行することを徹底するためには、国家公務員に関する制度の在り方を原点に立ち返って見直し、国家公務員の意識を改革することが必要である。」(提案理由)
官製談合の蔓延、年金記録の消失、年金保険料の横領、厚生労働省の薬害肝炎問題、防衛省事務次官の汚職など、重大な公務員不祥事が続発している行政の現状を直視すれば、提案理由に示された国家公務員に対する認識は極めて真っ当で重要と言える。しかし、私は、提案理由には大いに賛同しつつも、基本法が定める具体的施策については疑問があり、同法の実施には特段の注意が必要と考えている。法の目的(キャリアシステムの廃止)と手段(採用試験制度の再構築)に整合性を欠くところがあると思われるからである。
以下、国家公務員制度改革とキャリアシステムの関係について、民主制国家を支える国家公務員の育成という観点から意見を述べることにしたい。

1.キャリアシステムとは

 キャリアシステムとは、採用時の1回限りの試験で中央省庁等の幹部要員の選抜を行い、同期の者はほぼ同時期に昇進していくことを原則とする人事管理の方法であるが、これは法制上の正規の仕組みではなく、単なる人事慣行と言うべきものである。
 中央省庁等の幹部職員人事が法制上の正規の仕組みでなく、単なる人事慣行によって行われているのは、実に不明朗で好ましくないことである。しかし、キャリアシステムの本質的問題は、本来職務遂行を通じてしか適正に行えないはずの幹部要員の選抜を採用試験に著しく重点を置いて行っている点にある。このような人事管理は一種の身分制度のように機能しており、明らかに非合理的で非民主的、時代遅れのものと言わざるを得ない。
 国家公務員法は、「職員が、民主的な方法で、選択され、かつ、指導される」(第1条第1項)、「すべて職員の任用は、能力の実証に基づいて、これを行う」(第33条第1項)と、職員の民主的な任用のために能力実績主義を根本原則としており、採用時の1回限りの試験で幹部要員の選抜を行う人事管理は、元々想定していない。過去の国家公務員採用上級甲種試験も現在のT種試験も、人事院規則により創設された大学卒業者を採用するための試験の一つに過ぎず、それに合格し採用されることは、幹部要員としての資格を法制度上与えられるものではない。
 我が国の戦後の国家公務員制度は、公務員制度の完全な民主化のため、戦前の身分制的な旧官吏制度の中核をなす高等文官試験の廃止から始まっており、キャリアシステムは民主的性格の強い国家公務員法には、まったくふさわしくない人事管理の方法と言わなければならない。また、そうであるからこそ、キャリアシステムは戦後、単なる人事慣行として発生することになったと思われる。しかし、我が国社会に根強く残る学歴主義と試験信仰(有名大学に入って難しい国家試験に合格した者は、優秀な公務員になれるはずだという信念)のためか、国家公務員法の原理・原則が従来深く意識されることはなかった。
 キャリアシステムの見直しの必要性については、人事院が数年前から指摘する1 ようになり、閣議決定で言及される2 こともあったが、議論は活発とは言えなかった。国会審議では、平成18年4月26日の参議院行政改革に関する特別委員会における小泉内閣総理大臣の次のような発言がきっかけとなって、ようやく議論が本格化することになったと言うことができる。
 「役人のキャリア制度というのは、もう最初から、学校の成績、試験合格すると幹部は決まっている。これは果たしていいのかどうか。一定の試験を経ない方でも、会社に入ってから、役所に入ってから、試験で合格したよりもはるかに能力のある方もたくさんいるわけです。今の制度を固定化して考える必要はないと思っております。」
 小泉総理の発言は、採用試験で幹部要員の選抜を行うことの合理性を否定するものと言えるが、さらに、平成19年6月、安倍内閣の下で行われた国家公務員法の改正では、職員の人事管理が採用試験の種類にとらわれてはならない旨の規定(第27条の2)が加えられた。これにより、採用試験に著しく重点を置く幹部要員の選抜は「違法」であることが明らかになったと言える。キャリアシステムは法制上の仕組みではなく、単なる人事慣行であるから、その廃止に立法は不要であり、この法改正を踏まえて、直ちにキャリアシステムの廃止に着手できたはずであったが、現実は変わらなかった。

2.キャリアシステムの弊害

 人事院は「平成19年度年次報告書」で、キャリアシステムについて次のように指摘している。「いわゆる『キャリアシステム』については、幹部要員の確保・育成に寄与してきた側面があるとの見方がある一方、従来から、『採用時の一回限りの選抜で、生涯にわたる昇進コースまで決定されるのは不合理である』、『閉鎖的なキャリアシステムが特権的な意識を生じさせている』などの批判がなされてきた。」
 ここで「幹部要員の確保・育成に寄与してきた側面がある」と、キャリアシステムのメリットのように述べられているが、幹部職員人事がキャリアシステムを固く維持してきたために、人事管理全体が能力実績主義の実施に著しく怠慢になってしまったことを考えれば、到底妥当な見方とは言えない。能力実績主義は国家公務員法の根本原則であるから、その実現を妨げてきた要因にプラスの評価をするのは、本末転倒と言うべきであろう。また、キャリアシステムは典型的な年功序列システムであるため、ピラミッド型の行政組織において職員の早期退職を促すことにより、天下りの温床となっており、さらに、各省独立人事の中核として機能することにより、いわゆる省庁割拠主義の原因にもなっている。そして、天下りと省庁割拠主義は、行政改革の最重要課題である独立行政法人の整理合理化の障害となっている。このようにキャリアシステムの行政運営への悪影響は甚大である。
 しかし、最大の弊害は、キャリア職員が持つ「特権的意識」であると私は考えている。「特権的意識」は、公務員の存在意義を否定しかねないほどの深刻な倫理問題と言えるからである。そもそも国民主権と法の下の平等に基づく民主制国家において、すべての公務員の地位と権限は主権者である国民に由来し、公務員は職務の遂行に当たり、すべての国民に対し平等に対応しなければならず、公務員は公務員であることにより、特権的立場に立つことは許されない。「全体の奉仕者」(憲法第15条第2項)である公務員は、この民主制原理・国民主権原理を深く自覚しなければならないが、「特権的意識」はそれに真正面から反するものであり、公務員倫理における根元的な害悪と言ってよい。
 キャリアシステムでは、幹部要員の選抜を採用試験に著しく重点を置いて行い、結果的に有名大学卒業生について公務員の特権者を生み出すという身分制的仕組みとして機能している。この特権者の意識が、一般市民の常識・利益(市民的公共)とはかけ離れた「官」の歪んだ想念(官の公)を形成し、民主的運営を第一とする公務に深刻な悪影響を及ぼしていると考えられる。官製談合等の続発する公務員不祥事と関係機関の責任意識に欠ける対応を見るたびに、私は、「市民的公共」に反する「官の公」という世界が広がりを増しているのではないか、と危惧するようになった3
 公務の善し悪しは、結局は公務員の資質によって決まるが、キャリアシステムの最大の弊害は、公務員に求められる民主的資質が、「特権的意識」によって精神の深部において破壊されていることであると考えられる。キャリアシステムは、民主的公務員制度の根幹をなす公務員倫理と本来相容れない人事管理の方法とも言えるのである。

3.キャリアシステムの廃止のために

(1)基本法におけるキャリアシステムの取扱い

 本年2月、内閣総理大臣に提出された「公務員制度の総合的な改革に関する懇談会」報告書では、幹部候補を事実上固定化するようなキャリアシステムの廃止や採用試験制度の再構築、幹部候補を総合的計画的に育成する人事・選抜制度(幹部候補育成課程)の導入などが提言され、同年4月、この報告書を受け、「国家公務員制度改革基本法案」が政府より国会に提出された。同法案に対しては、衆議院において政治主導の強化、幹部職員人事管理の内閣一元化、内閣人事局の設置等の8項目に関する修正が行われ、また、参議院において内閣委員会の採決の際に、キャリアシステムの廃止や人事行政の中立公正性確保に関する事項等15項目に及ぶ附帯決議が行われた上で、基本法は成立した。
 ところが、基本法にはキャリアシステムの廃止について規定した条文がないのである。それどころか、キャリアシステムの廃止を妨げるおそれのある施策が盛り込まれている。同法では、採用試験を「総合職試験・一般職試験・専門職試験」等に分け、「総合職試験」は、「政策の企画立案に係る高い能力を有するかどうかを重視して行う試験」(第6条第1項第1号イ)と位置付け、さらに、「幹部候補育成課程」では「管理職員に求められる政策の企画立案に係る能力の育成を目的とした研修を行う」(同条第3項第3号)と規定している。このような規定ぶりからすれば、「総合職試験」採用者が他の試験採用者よりも「幹部候補育成課程」の対象者に選定される可能性が格段に高いことは、法が当然に予定するところと考えられるが、これではキャリアシステムの廃止ではなく、法律による制度化であるとも言えるからである。特に「総合職試験」の採用者数を現行のT種試験採用者数よりも絞った上、「総合職試験」を「幹部候補育成課程」に直結する人事運用が行われる場合には、キャリアシステムの維持・強化になるおそれが極めて大きいと思われる。
 この点については、国会審議において、渡辺行政改革担当大臣は、「総合職試験」の採用者は「幹部候補育成課程」の対象者となる可能性が高いと考えられる旨の答弁を行った4 。しかし、大卒採用試験を「総合職と一般職」に分けることに問題はないのか5 、今以上の「スーパーキャリア」を誕生させることになるのではないか6 という疑問のほか、単に人事慣行から法制度へ変わるだけにならないようにするため、「総合職試験」の採用者数を現在のT種試験の採用者数以上にすべきではないかとの意見7 も主張された。これらは、いずれもキャリアシステムの本質に関わる重要な論点であり、徹底した議論が必須となる。

(2)現実的・実態的な検討が不可欠

 中央省庁等の幹部職員に求められる政策の企画立案や業務管理の能力は、実際の職務遂行を通じてしか身に付かず、適正な判断もできない。公務における「政策の企画立案」は、常に実現すべき「公共の利益」(国家公務員法第96条第1項)、すなわち「全国民に共通する社会一般の利益(市民的公共)」が何であるか、を現実的・具体的に考えながら行わなければならず、採用試験の段階で「政策の企画立案に係る高い能力を有するかどうか」を判断することは不可能だからである。例えば、薬害肝炎問題でどのような救済策が妥当かを考えるためには、行政の担当者として被害者との積極的対話を重ねる努力が何よりも重要であるが、公共政策大学院等に学んでも、机上の専門的知識の習得や思考訓練の域を出ないため、このような意味での「高い能力」の習得は不可能である。また、業務管理能力については、採用試験の段階で判定できないことは議論の余地がない。
 職務遂行の実態を考えても、本府省に特に「企画立案職」というものがあるわけではなく、同じ課の中で同じ内容の仕事をするのであれば、大卒採用試験を「総合職と一般職」に分ける合理性はない。勤務時間、勤務地等について明確な区別もなければ、尚更である。また、「政策の企画立案」は、常に特定の行政分野について行われるから、その能力も特定の行政分野に係る専門的知識と無関係には議論できないはずである。そうであれば、幹部要員の選抜は、「専門職試験」の採用者についても同じ条件とすることが合理的と言える。
 今後キャリアシステムと採用試験の関係を考えるに当たっては、小泉総理の答弁にあるような素朴な問題意識から、常識に基づいて判断することが大事であると思われる。

4.参議院による行政監視の意義

 参議院内閣委員会が行った基本法に対する附帯決議には、キャリアシステムの廃止に関する次のような極めて重要な項目が含まれている。
 「キャリアシステムの廃止が法制定の目的であることを踏まえ、職員の人事管理が採用試験の種類にとらわれてはならない旨の規定を完全に実施するよう最大限の努力を行うこと」、「公務員が憲法第15条第2項に規定する全体の奉仕者であることを踏まえ、幹部候補育成課程の対象者に特権的意識を持たせるものとならないよう研修等において十分配慮しなければならないこと」
 基本法の提案理由である「国家公務員制度を原点に立ち返って見直し、国家公務員の意識を改革する」ためには、政府が附帯決議を完全に実施することが不可欠である。そこで、行政に対する議会の統制のため、次のような監視活動を行うのはいかがであろうか。

1.

実態の調査・公表と内閣への意見表明

 

 各府省におけるキャリアシステムの実態及び不祥事に関する事例研究や倫理研修の状況を調査し、結果を公表するととともに、人事管理の改善について内閣に対し意見の表明を行う。

2.

専門家等の意見の聴取・公表

 

 キャリアシステムと公務員倫理について、専門家、有識者、一般市民等から広く意見を聴取し、とりまとめ、公表する。

3.

附帯決議の実施状況の監視と公務員制度改革の提言

 

 政府による附帯決議の実施状況を監視するとともに、民主制国家を支える公務員を育成するため、さらなる公務員制度の改革について検討し、提言を行う。

   
   


 キャリアシステムと公務員倫理の問題は、公務員制度の本質に関わる党派を超えて議論すべきテーマであり、それに関する行政監視は、民主制国家の日本において良識の府である参議院が行うにふさわしい活動であると思われる8 。参議院による行政監視は、「主権者である国民によってつくられた『官』は、市民的公共を実現するためにのみ存在する」9 という原理(民主制原理)を徹底するための議会の活動であると言えるからである。

注:

上記文中の、赤字の部分は、武田康弘館長の思想による ー脚注の3と9をご参照ください。

1.平成15年「給与等に関する報告と給与改定に関する勧告」 戻る

2.平成17年12月24日「行政改革の基本方針」 戻る

3.武田康弘氏(白樺教育館館長・哲学者)は、次のように述べている。
「公(おおやけ)という世界が市民的な公共という世界とは別につくられてよいという主張は、近代民主主義社会では原理上許されません。昔は、公をつくるもの=国家に尽くすものとされてきた『官』は、現代では、市民的公共に奉仕するもの=国民に尽くすもの、と逆転したわけです。主権者である国民によってつくられた『官』は、それ独自が目ざす世界(公)を持ってはならず、市民的公共を実現するためにのみ存在する。これが原理です。」(白樺教育館「思索の日記」)
戻る

4.第169回国会衆議院内閣委員会議録第15号15頁(平20.5.14) 戻る

5.第169回国会参議院内閣委員会会議録第19号13頁(平20.6.5)  戻る

6.第169回国会衆議院内閣委員会議録第15号12頁(平20.5.14) 戻る

7.第169回国会参議院総務委員会会議録第19号4頁(平20.6.5) 戻る

8.本年1月22日、参議院内閣委員会調査室、総務委員会調査室及び行政監視委員会調査室の3調査室共催による「公共哲学と公務員倫理に関するパネルディスカッション」が行われたが、ここでの議論がキャリアシステムの問題に直結する内容となっている。テーマは、「公共哲学と公務員倫理−民主制国家における公務員の本質」であり、パネリストは、金泰昌氏(公共哲学共働研究所所長)、武田康弘氏(白樺教育館館長)、山脇直司氏(東京大学大学院教授)と荒井達夫の4名であった。『立法と調査』別冊(2008.2)参照
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9.脚注3参照 戻る

 

 

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2008年9月10日
古林 治

 

 
 
 
 
 
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