50. トランジスタアンプと真空管アンプ
武田康弘
両サイドの縦長のスピーカーはティール、右端はスーパーウーハー
音楽を聴くとは、作曲者や演奏家の想念、心や息づかいを聴くことでしょう。ところがトランジスタのアンプ(国産、輸入オーディオを問わず)を使って再生すると、無機質な均一性の世界がつくられてしまい、音楽を聴く愉しさや悦びが減じてしまう。人間の情感ではなく、機械の論理に支配されるという感じになる。(余談―まるで日本の官僚政治のよう!)
実は、このことは何十年も昔に感じていたのですが、今改めて書くには理由があります。
私はよい音で音楽を聴きたいという強い欲求に駆られて、中学三年生の終わりころから秋葉原の「テレビ音響」や「ダイナミックオーディオ」などに毎日のように通い、世界のオーディオを聴き、いくつものスピーカーを自作し、さまざまな工夫と工作に明け暮れてきました。いわゆる音楽好きの「オーディオ少年」だったわけです。ブラスバンドでトロンボーンを吹きつつ、上野の文化会館にも主にオーケストラを聴きに通い続けました。じつに今年で音楽歴は40年、オーディオ歴は37年になります。私にとっての神は、昔も今もずっと音楽でした。
オーディオ装置は、最初はふつうのトランジスタアンプを使っていましたが、高校三年の時(1969年)に真空管アンプに替えて長いこと愛用してきました。しかしサンスイ、ラックスのアンプとも耐用年数が過ぎた1982年にアキュフェーズのトランジスタアンプ(MOS-FET)に替えました。当時はもう一般には真空管の優れたアンプを入手することは困難になっていたからです。
その後、最近では、高品位と評価の高いデンマーク製ボウ・テクノロジーズ(トランジスタアンプ)や物量投入型のデノン(トランジスタアンプ)も使いました。2001年秋にスピーカーを長年愛用してきたJBLのLE8T+パイオニアのリボントゥイター(堅固な大型ボックス入り)から、高解像度、高スピードで位相のズレも少ない現代ハイエンドを代表するティールに替えたこともあって、これを鳴らすアンプは、力の強い最新のトランジスタしかないのでは?と考えていたからです。真空管アンプも中国のハイテク企業から安価な良品が出て入手しやすい状況になっていましたが、たとえ音色に魅力があったとしても、現代オーディオにはさすがに苦しいだろうな?所詮は「趣味」の世界にすぎないだろうと思って敬遠していたのです。
ところが、ある日ティールのスピーカーを鳴らしていて突然ひらめきました。この色づけの少ない素直で高精度なスピーカーには、常識とは逆に現代の良質の真空管アンプが合うはずだ!
そこで、早速私の好きだった真空管KT88のパラレルプッシュプル、トランスも高純度6N銅の「オーディオスペース」(中国)のプリメインアンプ、ついでにSACDプレーヤーも真空管出力のものを今年で37年目になる長〜いお付き合いの宮越さん(ダイナミックオーディオ新宿店)から購入。
これがなんとも素晴らしい音、声や楽器の生の音?が聴こえます。ティールでバランスを取るにはトランジスタアンプではあまり必要のなかったスーパーウーハーを50Hertz以下に追加するなどの工夫は必要ですが、全く次元の違う音楽の世界が出現しました。昔のよい音がレヴェルを上げて甦った!
そんな感じです。
下がアンプ、上にあるのがCDプレーヤー(いずれも中国製の真空管方式)
今、この部屋(大成パルコンの14畳)では、クレンペラーのマーラーが、グルダのベートーヴェンが、ありありとした現実感をもって鳴っています。
無機的ではなく生きた音、機械的ではなく自然な音、表層的ではなく実在感のある音、です。
オーディオ的な言い方をすれば、聴感上のSN比、ダイナミックレンジが桁違いに高く、音が透明だ、ということです。その結果、奏者の息づかいや、音を出す気配が明瞭に、等身大のレヴェルで聴き取れるのです。最新録音のSACD盤はさらにしなやかで艶やか、フワッとした音場が広がります。
これをお読みの皆さん、小型のものでいいですからぜひ真空管のアンプで音楽を聴いてみて下さい。今は中国製の良品が廉価でもとめられます。きっとあなたの心の世界が変わります。
数字上優秀なトランジスタアンプの無機質で機械的に均質な音を聞いていると、いろいろなことが連想されます。
男も女も、情緒音痴のすまし顔には魅力がありません。これが石(トランジスタ)の音。豊かな感情をもった生き生きとした顔はチャーミングで誰もが引きつけられ癒されます。これが球(真空管)の音です。
人形の美でしかないような人間では、つまらないし、悲しいです。私たち日本人もそろそろ人間になりたいものだな〜!?と思います。おっと、脱線してしまいました。失礼。
(2004、3、18)
参考までに以前のオーディオ・システムはこちら--→
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