戻る
  •  
  • Home
  • >
  • 教育館だより目次
  • >
  • 203. テオドール・クルレンツィス+ムジカエテルナ、コパチンスカヤ
        日本初公演の衝撃 文字通りの革命に感嘆!

  • 203. テオドール・クルレンツィス+ムジカエテルナ、コパチンスカヤ
       日本初公演の衝撃 文字通りの革命に感嘆!

     2月11日(日)すみだトリフォニーホール。

     少し前、今年の2月にテオドール・クルレンツィス+ムジカエテルナ、コパチンスカヤ の日本初公演がありました。
    私たちが聞いたのは2日目の2月11日(日)すみだトリフォニーホールでのこと。
     プログラムは、チャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 <パトリツィア・コパチンスカヤ(ヴァイオリン)>、 交響曲第4番 ヘ短調。

     そのあまりの衝撃にしばらくここにアップするのを忘れていたくらいです。いや、ほんとう。

     ようやく気持ちも落ち着き、当時の熱狂を伝える写真とその衝撃を館長武田康弘のブログから紹介します。

     加えて、公演前にクルレンツィスの音楽のイデアについて語ったブログも併せて掲載します。社会変革まで射程に入れた聖なる狂気に取りつかれたクルレンツィスの人となり、お楽しみください。

    クリックで大きい画像を見ることができます。
     場合によってはさらに大きな画像表示が可能です。
     画像左上のアイコンをクリックしてください。
     写真はすべてSONY DSC-RX1R。撮影は
    武田康弘(ただし、☆印2枚は古林治)


    《墨田トリフォニーホール公演での演奏感想 文字通りの革命に感嘆!》

     文字通りの革命と言える。

     とんでもないレヴェルの弱音から、もの凄い厚みの強奏までダイナミックレンジの広さと躍動感は、ウィーンフィルにもベルリンフィルにもない美質。

     ファッと浮き上がる音と沈み込む音の凄味。
     全身に鳥肌が立ち、熱が出る。
     異次元の音楽で、通常の批評をしても意味がない。従来のオケとは別もので、再現芸術のクラシックの世界を超えている。曲がいま、新たにこの場でつくられたように聞こえ、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲は、自分が何を聴いているのかさえ分からなくなる。現代曲のようでもあり、ジャンルを超えた音楽のようでもある。超がつくほど音が生きている。細かく分析的に批評しても意味がない。

     チャイコフスキーの交響曲4番は、今まで聴いたことのない強烈なまでの迫力をもつが、品位が高く、音は汚れない。いつまでもこの音楽の中にいたいと思った。自発性に富み、自由に羽ばたく音は、従来のオケにはない。ドイツ・カンマーフィルに近いが、うねるような柔軟性と音量の大きさには茫然としてしまう。粗削りな個所がある、という批判は可能だが、それは、彼らの主張・自由な音楽のつくり方が理解できない証拠だ。(ただし、4番はまだ完成形ではないと感じた。録音するまでには変更があるだろう)。

     

    右後ろの男性がこちらを見て笑っている.
    ほとんどかぶり付きでカメラを構える武田の姿に反応?
    それとも、写真嫌いと言われるクルレンツィスを知っての笑い?

      コパチンスカヤのアンコールは3曲、

     オケのアンコールは、なんと幻想序曲「ロメオとジュリエット」全曲で、明後日のサントリーホールでの演目の一つ。
     これまたとんでもないレベルの演奏で、もう感動で頭も心身も満杯の大満足。古代アテネからの使者・クルレンツィスとムジカエテルナとコパチンスカヤ、世界中で革命を起こして、大騒ぎなのは当然だ。なんとも言い難い「夢のような時間」を過ごした。

     組織人、団体人、国家主義者、「常識人」、既成秩序に囚われた人は、否定しないと自分がなくなってしまうと感じる彼らの音楽=存在でしょうが(笑)、聴衆の歓呼は、日本人を含む人間に希望を与えます。

     感謝、ただ感謝あるのみ。

     演奏後、なんとサイン会。おそらくホール始まっていらいの長蛇の列で、建物の最上階まで人がビッシリ。諦めた。いったいどのくらい時間がかかるのか。クルレンツィスもコパチンスカヤもスサマジイばかりの超絶演奏の後、全員にサイン!恐れ入る。 

    ☆ アンコール曲

    武田の誘いにより参加された二宮玲子さんの痛快なお話と
    ためになるお話で、とても楽しい食事&飲み会でした。
    ちなみに、二宮さんは作曲家でピアノの名手、オケを組織し、音大で教えておられる方です。
    左から古林治、西山裕天、堀田拓渉、武田康弘、二宮 玲子、武田百代(敬称略)

    2019年2月11日 武田康弘


    《「クラシック音楽はつまらない」クラシック界の革命家
     テオドール・クルレンツィス待望の初来日》

     現在のクラシック音楽界に新しい風が吹き始め、もう無視することは出来ない。その台風の目である指揮者テオドール・クルレンツィスが、いよいよ2/10から自身のオーケストラ『ムジカエテルナ』を率いてはじめての来日ツアーを行う。

     「クラシック音楽はつまらない」と現在のクラシック音楽界に疑問を呈し、音楽を通じて『人間革命』まで目論む夢追い人のクルレンツィスとは一体何者なのか。彼の来日は日本に何をもたらすのだろうか。

    クルレンツィスとは何者か?

     1972年アテネに生まれたテオドール・クルレンツィスは、母と叔父が教鞭をとるアテネの音楽学校の校舎内で育った。4歳でピアノを始めるが、ピアノの音はあまりにも身近にあり過ぎて、オーケストラの響きに惹かれ、8歳でヴァイオリンを始める。作曲もするが、そのうち、「自分は人と違ったことをオーケストラ譜から読み取れるらしい」と気付き、指揮の道に進む。敬愛するロシア人指揮者イリア・ムーシンに師事するためサンクトぺテルブルグに留学した時、既に晩年のムーシンにはヴァレリー・ゲルギエフやユーリ・テミルカーノフなどの優秀な弟子がいたが、「クルレンツィスは唯一の天才」と特別視していたと言われている。

    クルレンツィスの革命

     そんな「天才」が最初に活動の拠点として選んだのは、サンクトペテルブルグに残ることでもモスクワから西側を目指すことでもなく、シベリア鉄道で栄えた過去の街ノヴォシビルスクだった。それは、「真実が少ないクラシック音楽界を改革するには古い体制を破壊しなければならないが、既存のシステムが固まっていない土地では破壊せずに改革できるから」だと言う。そこで自分の求めている方向の音楽を実現してくれる仲間を集めてムジカエテルナというオーケストラを作り、徹夜で練習したり、録音したりする自由を得るためにノヴォシビルスク国立オぺラ・バレエ劇場の芸術監督になったのだろう。そうして世に送り出した録音がソニークラシック社長の目にとまり、ソニーと契約。《フィガロの結婚》全曲録音は2014年エコー・クラシック賞を受賞した。

     2017年にはムジカエテルナのザルツブルグ音楽祭デビューを果たし、3年連続で当音楽祭の目玉公演を任されている。2018年にはドイツSWR放送交響楽団の首席指揮者にも就任し、今年の夏は彼らをザルツブルグデビューさせる予定だ。

    クルレンツィスの何が特別か

     まずは、再現芸術であるクラシック音楽が「伝統的な演奏」に縛られている限り、再現する意義を失うと、彼は確信して憚らない。音楽に大切なのは「今、生きている」音楽として生かしてあげること、そのためには、過去に生まれた音楽を、その後の時代の影響をふまえ、発展させたものとして演奏することによって、現代に再現されることの意義を与えられる。大切なのは、常にリノヴェイションしていくことだというのだ。彼の指揮する19世紀のイタリアオペラにビートが効いていて、ロックみたいな部分があったとインタビューで振ると、「音楽に対する愛から湧き出て来るエネルギーのなせる技。ロックはエネルギーがあるけれど、エネルギーがなくなると、クラシックになっちゃうから」と皮肉る。代々受け継がれて来た演奏規範を簡単に覆し、「これが現代に蘇る僕たちの解釈だ」と呈示する姿は、当然反感も買うが、魂に届くと心が震える効果を呼ぶのは嘘がないからだろう。彼ならば、新しいクラシック音楽ファンを生み出せるかもしれない。

    音楽はミッション

     彼は「音楽はミッション」だと言い、そのミッションには2つのポイントがあるという。1つは彼の音楽によって聴衆を幸せにすること、もう1つは、それによって聴衆をより良い人間にし、自分をより良く知れるように自分自身と対話する機会を与えることだという。彼は「一人ひとりが周りにより良く接することで、それが世界を変えていく力になる」と確信しているのだ。言葉で聞くと「それは理想論だ」と思うのだが、実際に彼の指揮する音楽を聴くと人類愛のようなものを感じる時がある。日本の皆様にも、是非その感覚を味わって頂きたい。

    クラシック音楽を使った街おこし

     現在彼が芸術監督を務めるペルミ国立オペラ・バレエ劇場はディアギレフ・フェスティヴァルを通して活気づいている。ソ連崩壊後中央集権的になっているロシアの音楽界に一石を投じて、寂れた鉱山の街だったぺルミを「音楽の首都」にする野望を抱いているという。そして本当に、フェスティヴァル期間が終わっても、「ここで音楽を聴いていたい」と移住してくる人が増えているというから驚きだ。その「音楽を通した街おこし」のアイディアは日本でも有効だと彼は話す。今回の初来日は彼の日本での革命の幕開けとなるかもしれない。

    2019年2月10日 武田康弘




    前ページ 白樺教育館 教育館だより
    戻る
  •  
  • Home
  • >
  • 教育館だより目次
  • >203. テオドール・クルレンツィス+ムジカエテルナ、コパチンスカヤ
         日本初公演の衝撃 文字通りの革命に感嘆!