民知の図書館
9. 『城の崎にて』他(短編集) 志賀直哉 〈各社・文庫〉
『和解』 志賀直哉 〈各社・文庫〉
志賀の鋭利で明晰(めいせき)だが狭い<自我>と、太宰の実存的な思想家としての<自負>とは、生前、相容(あいい)れることがありませんでした。しかし、対極にあった二人ですが、「青春の文学」という点では共通しています。
志賀の作品といえば、唯一の長編、『暗夜行路』が有名ですが、長編には、普遍性のある「虚構」の力を必要とします。大きな「構想力」という点では力のなかった志賀に、やはり長編は無理です。
我孫子時代に書かれた作品、内部=外部観察の驚くべきシャープさと的確さが遺憾なく発揮された『城の崎にて』などの珠玉の短編と、ほとばしるエネルギーと冷静な分析とが一つになった感動的な中篇の傑作―『和解』は、彼のよさが素直にあらわれた代表作です。 ぜひ味読して下さい。
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