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22.『フロイト思想を読む』

   竹田青嗣・山竹伸二著(NHKブックス 2006年3月刊 ¥1,070+ 税) 

フロイト

  本書は、平易ですが、内容は類書にない極めて優れたものです。その理由は、フロイトの理論を「事実学・科学」としてではなく、人間の「本質論」(本質的な人間学)として捉えているからです。

 事実を事実として定立させているのは人間自身ですから、人間存在を事実学・科学として捉えることはできません。事実学の探求仕方とは方向が逆なのです。これは哲学する者(恋知者)からすれば言わずもがなの原点ですが、心理学の研究者にはそのことがなかなか分からないようで、錯綜した議論に陥り、無意味な理論の山が築かれてきました。フロイト自身も自身の見解を「精神科学」(事実学)だとしたために、余計に混乱をきたしたのです。

 本書では、「正しく」この人間存在に対する一つの優れた洞察を、【「エロス的存在」としての本質的な人間学】(竹田)として捉え、そこからフロイト思想を見事に活かす道を示しています。「無意識」という概念によって人間の本質を考えてみたい人にはとてもお勧めです。最終章(第6章)の「無意識とは何か」だけでもよいですので、ぜひ。

 「事実学」的な歪み、袋小路に入ることなく 思考をきちんと前に進めるためには、本書のように「本質学」として探究することが絶対的な条件です。人間とは自分自身が「欲望」であり「身体」なのですから、超越者の立場に立って、事実としての人間を見ることは原理的に不可能です。事実学=客観学として人間学に取り組めば、逆立ちした有害な認識しか得られません。

2008/05/13
武田康弘

(以上、タケセンの『思索の日記』から )


古林 治

   
2008年5月15日
 
 
   
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