震災による原発事故以来、原発の危険性についての議論が沸き起こっていますが、いまだに原子力発電は必要だという意見もあります。
でも、よく考えてみれば、私たちの身の周りには、無尽蔵のエネルギーが満ち溢れています。そこで、「太陽力」を中心にした自然エネルギー(地熱以外はみな太陽力 といえます)について、考えてみました。
タケセンの「原子力から太陽力へ!」という発想により、わたし古林がまとめてみました。まずは、タケセンの30年来の友人で、自然エネルギー運動を推進する技術者の前田誠一さん(イゼナ社長)のインタビューからです。
●前田誠一さん宅
前田誠一さん
左は白樺同人の前田誠一さん
太陽エネルギーオジサンです。1975年(昭和50年)日本太陽エネルギー学会が設立されたことを知るや否やすぐに入会。
20年前に太陽光発電システムを自宅に設置。
世界で初めて水蓄熱式床暖房システムを開発、CO2ゼロ住宅を目指そうという株式会社イゼナの社長さんでもあります。
いつか、人間の利用するエネルギーのほとんどが自然エネルギーに置き換わることを夢見て。
その前田さんの家・事務所・作業場の屋根にはちょっと大きめの太陽電池パネルが設置されています。(5kW台のもの)
これで、家の電気エネルギーがほぼ全部まかなえています。
20年間利用し続けて、お日様のありがたみを深く実感しているのは間違いありません。
(当たり前ですけど、太陽光発電で賄えるかどうかは家自体の設計に省エネルギーが配慮されているかどうか、省エネルギーに配慮したライフスタイルを心掛けているかどうかに大きく依存します。)
その太陽エネルギーですが、実は太陽電池パネルではそのエネルギーの10-18%程度しか利用していません。 太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換する効率が今のところ10-18%程度ということなのです。もったいない!
そうなんです。実はですね、太陽エネルギーを熱として利用するともっと効率が良いのです。およそ50-60%!と言われてます。
家庭で消費される全エネルギーのうち、1/3は給湯用だ(右図参照)というのですから、太陽エネルギーを給湯に使わない手はありません。
その効果を確かめようと前田さんが実験的に作ったのが、下の写真にある太陽熱温水器です。D.I.Y.センターで買ってきた黒いホースをぐるぐるに巻き、水 を充填してお日様にさらすだけのシンプルなものです。これでたっぷりの熱いお湯ができます。(吸収した熱が逃げないよう、塩ビの透明シートでカバーしてあります。)
実験で作成した太陽熱温水器
D.I.Y.センターで簡単に手に
入る素材で作成
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これだけで結構な量のお湯が出来上がるのです。
皆さんも試してみたらいかが?
ちなみに、太陽熱温水器は家庭の給湯の半分近くをカバーしてくれます。残りは補助熱源(ボイラー等)で沸かします。
オイルショック後にかなり普及しましたが、残念なことに世界の中で日本だけ、普及率が下がってるとか。
補助制度の問題もあるでしょうが、カッコ悪い、とかで躊躇したり止めてしまう人が多いという話。見直してもいいんじゃないですかね。最近は結構かっこいいのもありますよ。
●菅野みどりさん宅
小さな蝶チョ博物館の館長、菅野みどりさん
左の出窓がその博物館.
現在、9種類の蝶チョが羽化待ちもしくは羽化中.
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さて、もう一軒、太陽電池パネルを設置しているお宅を訪問。
ご近所に住む、知る人ぞ知る民間蝶チョ博士の菅野みどりさん。
小さな出窓を蝶チョ博物館に改造して日々、蝶チョの世話と観察をしています。庭にある木や花は皆、蝶チョの飼育のためのもの!
プラスマイナス10分程度の精度で蝶チョの羽化をコントロールしてしまう人です。
ここ5年ほどは、生態系が大きく変わり、関東にはいなかった蝶がかなり増えていると言います。たとえば、昔はいなかった、黒くて大きいナガサキアゲハがたくさん舞ってる一方、関東にたくさんいたクロアゲハは夏にいなくなり(さなぎ状態で暑さをしのいでるのだろうとのこと)、春と秋にだけ飛ぶようになった、ということです。間違いなく、温暖化のせいでしょうね、と菅野さん。
菅野さん宅 南側に太陽電池パネル
家の周りの花は皆、蝶チョのためのもの(餌). .
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この菅野さん宅にも太陽電池パネルが設置されています。大きさは標準的なサイズよりちょい大きい程度。4月、5月、6月は大黒字!(売電>>買電)で、 冬場は持ち出しが出るとか。ただし、台所以外はオール電化ハウスで給湯も電気、前田さんが開発した床暖房システム(熱源は電気)も利用しているということで、普通のお宅より電気依存度はかなり大きいでしょう。
今でもそうですが、導入時から太陽光発電に対するネガティブな声は一部にあり、実は導入には躊躇したそうです。コストが高くつくとか、製造時にCO2を たくさん出すから意味がないとか。でも、設置してよかった、とのこと。原発の事故を見て改めてそう確信したようです。
●家一軒分に必要な電力を賄うための太陽電池パネルのサイズ
さて、この太陽光発電なるもの、どれくらいのパネルを乗っけたら家一軒分の電力を賄えるでしょうか。ちょっと試算してみましょう。
- 太陽電池容量 1kW(キロワット)のパネルが発電する年間発電量は
約1,000kWh(キロワット時)(太陽光発電協会)
- 一世帯当たりの年間総消費電力量は5,500kWh/年
(省エネルギーセンターホームページ)
とすると、5,500kWh/年÷1,000kWh/年=5.5
この計算ですと、1kWのパネルが5.5枚あればいいことになります。
省エネ設計の家に省エネライフスタイルを考慮すれば、5枚もあれば十分かも。
ちなみに、一般的に利用される太陽電池パネルは3 - 5kWです。
太陽光発電だけで家一軒分の電気はカバーできそうな感じですね。これってかなりの発電量だと思いませんか。
ちなみに、家庭で消費される電力量は全電力量のおよそ1/3なんですよ!
●2000万世帯で太陽光発電が採用されたら全部でどれくらいの【発電容量】になるか
もし、太陽光発電システムが全国5,759万戸(2008年度の住宅総数)のうち、2,000万戸(約35%)で採用されたらどれほどの発電容量になるか試算して みます。
太陽光発電による最大瞬間の総発電容量(初夏の昼過ぎ頃、2,000万戸)は
4kW/戸 X 2,000万戸=8,000万kW=80 GW(ギガワット)
ちなみに、
福島第一、第二原子力発電所はそれぞれ496.6万KWと440.0万KWで936.6万KW=9.366 GW
東京電力の年間のピーク電力(真夏の昼過ぎ頃)は5700万Kw=57 GW
全国の年間の原子力によるピーク電力(真夏の昼過ぎ頃)は46.23 GW
(原子力によるピーク電力、2009年度、電気事業連合会)
全国の年間のピーク電力(真夏の昼過ぎ頃)は203.97 GW
(ピーク電力、2009年度、電気事業連合会)
ピーク電力だけでみると、太陽光発電の威力は想像以上ではありませんか。
●同じ条件でどれくらいの【発電量】になるか
ただし、実際には、発電できない時間帯、しにくい天候などありますので、総電力量はちょっと異なってきます。
こちらもちょっと試算。
4,000KWh X 2,000万戸=80,000,000,000KWh=80,000 GWh(ギガワット時)
全国の原子力による年間発電量は266,110,352,000KWh=266,110.352 GWh
東京電力の年間発電量は304,455,646,000KWh=304,455 GWh
全国の年間発電量は939,774,244,000KWh=939,774 GWh (2009年度、電気事業連合会)
総発電量を見ても太陽光発電(2,000万戸)による発電量は相当なものです。全電力の8.5%、東京電力発電量の26.3%、全原子力発電量の30%をカバーできることになります。ちなみに、現行の全国総発電量は必要量ではなく余っていることにも注意してください(深夜電力は余りを使ってもらおうというもの)。
さて、2,000万戸に太陽光発電システムってそんな不可能な数字ではないですよね。実際には、住宅ばかりか公共の施設やオフィスビルなどにも設置可能ですし、太陽光発電技術はすさまじい勢いで進化中。 可能性はもっと広がるはず!
ちなみに、集光型の太陽光発電、印刷できるフィルム上の太陽電池モジュール、ペイント可能な太陽電池、ホログラムを利用して光の方向と必要な波長を自在に制御できる太陽光発電、赤外線も利用する太陽光発電、などなど調べると、現在進行形の面白い技術がたくさん出てきます。将来が楽しみです。
太陽光発電が生み出すエネルギー量を実感されましたでしょうか。
何も太陽光発電で全部まかなえと言ってるわけじゃありません。太陽の恵み、自然の恵みは私たちが想像する以上に大きなものであることを感じとっていただきたかったのです。
どういうわけか、私たちは自然由来のエネルギーは役に立たず、原子力が必要なのだ、と思い込まされてしまったようですが、どうもそうではないように思われます。
再生可能と言われるエネルギーは太陽光発電だけではありません。風力やバイオマスは太陽光発電以上のエネルギーをすでに生み出しています。それに、同じ太陽エネルギーからはほかにも太陽熱エネルギー、小水力発電、海流発電、といった形でエネルギーを取り出すことができます。それに月と太陽の引力を利用した潮流発電、地球からは地熱・温泉発電、といった形で自然エネルギーを利用することができるのです。
こうした再生可能エネルギーのことを象徴的に太陽力、と言ってみました。
原子力から太陽力へ、わかりやすいでしょう?
本来、この国のエネルギー政策をどうするかは、事実を知った上で私たちが考え、決めることです(現実には私たちの代行者である政治家が決めることになるでしょうが)。
私たちが決定するうえで必要な情報を提供したり、決定した後に具体的な策を思案し、実行に移す、それが専門家の仕事です。私たち市民の常識、良識というものは、どのような 専門家よりも勝っているのです。
そういうわけで、これからのエネルギー政策をどうするか、それを決めるのは、私たち市民の意思にかかっていると思うわけですがいかがでしょう。
●参 考
さて、少し調べてみると、今まであまり知られていなかったことがわかってくるばかりか、最近ではこれまでまともに取り上げられなかった、自然エネルギーの可能性についての調査も出てきています。それに、この国では、遅々として進まぬ太陽力利用ですが、海外に目を向けるとアッと驚くような劇的な技術革新、新しい産業の萌芽がみられます。
そうした動向を見ていると、もう、可能かどうかという技術論よりは、やるやらないの意思決定と具体的な制度設計の時期に来ているように思えます。エネルギー政策のガラパゴス状態に埋没する前に皆で考えてみましょう。
少し、最近の動向を紹介します。たくさんあるので、いくつかに絞って。
いかがでしたでしょうか。
『太陽力ってタイトルで何か書こうよ!』というタケセンの提言で、その代表的なエネルギー源である太陽電池を中心に少し触れてみました。
原子力から太陽力へ!
これからも機会があれば取り上げるつもりです。
皆さんも一緒に考えてみませんか。
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